太ももを鍛えて、筋力低下を防ぎましょう

好ましい歩き方に直結するのは、足の筋力です。衰えると、足の蹴り出しが弱くなって歩幅が狭くなったり、足が十分上がらずに、すり足になったりします。
東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)の研究部長で、花王の歩行解析装置の開発にも協力した金憲経さんは「年をとっても手軽にできる運動を行えば、20%程度の筋力アップが期待できます。加齢で身体のバランス感覚が悪くなっても、筋力アップで補えば歩行が安定します」と話します。
金さんが最も勧める足の運動は、太ももの筋肉を鍛える「片足上げ・膝伸ばし」運動です。
丈夫なイスに座り、片足を上げて足首を手前に曲げます。この体勢で2、3秒静止。続いて反対の足も同様に行います。高齢者は無理をせず、一度に2、3セット、1日4~8回行います。
慣れてきたら、かかとを高く上げると強度が増し、効果が上がります。
爪先とふくらはぎを鍛える「かかとの上げ下げ」運動もお勧めです。丈夫なイスの背に軽く手をつけ、両足をそろえて立つ。爪先を支点にかかとをゆっくり上げ、ゆっくり下げる動作を繰り返します。一度に無理のない回数を行い、これを1日4~8回繰り返します。イスの代わりに壁などに手をつき、体を支えてもいいです。
もっと簡単な「爪先の上げ下げ」運動も効果があります。イスに座って両足を肩幅に広げ、かかとを支点に爪先を上げ下げするだけですが、すねの筋肉が強くなるので、すり足が改善できます。
金さんは「加齢による筋力低下は避けられない。しかし、簡単な運動を習慣化することで、筋力低下は最小限に食い止められ、元気に歩き続けることができる」と話しています。

1日2.2~2.5リットルの水分補給で熱中症対策を

「高齢者は熱中症になりやすい。水分補給には特に気をつけてほしい」
京都女子大学名誉教授(運動衛生学) の中井誠一さんは、そのように強調します。
熱中症になりやすいのにはいくつか理由があります。1つは暑さに対する感度が低下している点です。若い人は暑くなると、喉の渇きを自然に感じて水分を積極的にとります。
しかし、高齢になると感度が鈍くなり、水分を自ら補給しようとしなくなりがちです。
もう一つは体内の水分量が減っていることです。水分は体重の60 %を占めますが、高齢になると55%に低下します。さらに、体温の調節機能が衰え、体にこもった熱を外に逃しにくくなります。
総務省消防庁によると、2016年(5~9月)に熱中症で救急搬送された人は約5万人で、そのうち高齢者は約2万5000人と5割以上を占めていました。
中井さんは1日2.2~2.5リットルの水分をとることを勧めています。尿や汗などでそれだけ体外に出るからです。
例えば2.5リットル必要だとすると次のようにしたいです。まず、飲料として飲む分が1.2リットル。起床後に飲む水、食事の時のお茶、おやつの時のコーヒーなどです。3度の食事でとるご飯やおかずなどの食べ物にも水分が含まれていて、ここから1リットル。残りの0.3リットルは、体内の栄養素がエネルギーに変わる時に出る「代謝水」が、この分になります。
中井さんは「これは最低限、必要な量。猛暑でたくさん汗をかいたら、スポーツドリンクなどをさらに飲んでほしい」と話しています。

自家製経口補水液で熱中症対策を

気温が高くなる夏。熱中症対策の柱は汗で失われる水分の補給です。
汗をかくと、体からは水分だけでなく、塩の成分となるナトリウムなどミネラルも失われます。その際に真水だけ飲むと、これらの濃度が低下し、吐き気や筋肉のこむらがえりなどが起きることがあります。
水分とともに塩分や糖分を補給するにはスポーツドリンクが有効ですが、毎回購入すると費用もばかになりません。済生会横浜市東部病院(神奈川県横浜市)医師の谷口英喜さんは「似た成分で、さらに水分補給に優れた飲みものを自分でつくることもできます」と自家製の経口補水液づくりを勧めています。
作り方は、1000ミリ・リットルの水に、3グラム (小さじ2分の1杯) の食塩と、40グラム(大さじ4と2分の1杯)の砂糖を加えます。粒子がなくなるまでよくかき混ぜます。
水は水道水です。ただ、塩素を除くため、一度沸騰させ、常温になるまで冷まします。その後、レモンやグレープフルーツの果汁を一搾り垂らします。味が良くなるだけでなく、筋肉の動きを助けるカリウムもとれるからです。
飲む時は冷蔵庫で冷やします。体温を下げられるほか、水を吸収する小腸に素早く届かせるためといいます。
経口補水液を水代わりに毎日、習慣的に飲むのはかえって体に悪いです。塩分や糖分のとりすぎは、高血圧など生活習慣病につながるためです。夏場に暑さで食欲が落ちた時のほか、ジョギングや散歩などたくさん汗をかいた時だけにして下さい。
谷口さんは「一度に大量にとっても尿で排出されてしまので、コップ1杯(200ミリ・リットル)程度に分けて飲んでほしい」と話しています。

熱中症の応急処置

熱中症といっても、めまい、立ちくらみ、大量の汗、筋肉痛といった症状の軽いものから、頭痛、吐き気、けいれん、意識を失うといった重症まで様々です。帝京大学教授の三宅康史さんは「暑さで具合が悪くなったら、迷わずに熱中症と思って応急処置などしてほしい」と早めの手当てを呼びかけてます。
まず意識の有無を確認します。意識がない場合は、すぐに救急車を呼んで医療機関を受診させます。意識がある場合の応急処置としては、体温を下げることと、水や塩分を補給することの2点が重要です。
体温を下げるには、風通しの良い日陰や冷房の利いた屋内へ移して、服をゆるめて休せます。首やわきの下、太ももの付け根といった太い血管の通る場所を、氷のうなどで冷やすと効果的です。
水や塩分の補給では、自分で飲めない場合は医療機関を受診します。できる場合は、水、経口補給液、スポーツドリンクなどを飲むとよいですが、注意が必要です。
経口補水液にはナトリウムやカリウムが含まれるため、高血圧、糖尿病、腎臓病など持病のある人は医者と相談した方がいいです。健康な人も1日に飲む量の目安があります。三宅さんは「高齢者などでは、3食きちんととった食事に塩分が多いケースがあります。この場合は、経口補水液でなくて水だけでも十分」と指摘します。
運動後には、糖分が含まれるスポーツドリンクがお勧めですが、カロリーが高いので日常的に飲み過ぎないことが大切です。
応急処置をしたら、しばらく安静にして体を休めるそれでも症状が回復しない時は医療機関でみてもらいましょう。

熱中症予防は、こまめな水分と冷房を

熱中症の患者を年齢別にみると、10代が圧倒的に多く、ほとんどが運動中に発症しています。大半は軽症で、年齢も若いために回復も早いです。重症化を警戒すべき年齢層は、幼児と高齢者です。
幼児は体が十分に発達していないため、体温調節が上手にできません。
高齢者は老化で、汗をかきにくく、体温が上昇しやすいです。気温にも鈍感で暑さも感じにくくなっています。さらに、体の水分量も若者に比べて少ない上、脱水症状を示す体のサインである喉の渇きも感じにくいです。
熱中症の死者の約8割は70歳以上で、高齢になるほど重症化しやすいです。日本救急医学会熱中症に関する委員会の委員長を務めた帝京大学教授の三宅康史さんは「高齢者の熱中症は、日常生活で徐々に進行します。喉が渇かなくても、こまめに水分補給をしてほしい」と指摘します。
高齢者は、高血圧や糖尿病といった持病を抱える場合が多く、健康な場合より体調を崩しやすいです。室内だけの生活でも、昼夜気温が高い日が続くと、食欲が落ちて衰弱してしまいます。
エアコンがあっても「電気代がかかる」「扇風機で我慢できる」といった理由で、冷房を控える傾向があります。三宅さんは「本人が大丈夫と言ってもダメ。家族など周囲が気を回して伝えるなどして、こまめにエアコンを使ってほしい」と話します。
高齢者の熱中症を防ぐには、ふだんから運動などで体を動かして汗をかくなど、体温調節の働きを改善させる方法もあります。運動後30分以内に牛乳を飲むと、疲労回復、血液量の増加も期待できるといいます。

天気を把握して熱中症の予防を

6~9月に「日射病」など熱中症の症状を訴えて病院を訪れた人は国内で毎年平均約33万人もいます。厚生労働省が管理する過去5年分のレセプト(診療報酬明細書)を分析してわかったもので、2013年には、関東地方の梅雨明けが平年より約2週間早かったことから、40万7948人にも上りました。
熱中症は、体が高温にさらされて発症する病気の総称です」と言うのは、レセプトを分析した帝京大学教授(救急医学)の三宅康史さんです。熱中症の症状は、めまい、立ちくらみ、筋肉痛、大量の汗といった軽いものから、頭痛、吐き気、けいれん、意識を失う重いものまで様々です。
発症時期のピークは、梅雨明け後の7月中旬から8月上旬で、時刻は正午~午後3時頃が多いです。「気温や湿度が高く、風が弱い、日差しが強いといった条件がそろう時は要注意」と三宅さんは言います。患者は、大きく分けて2通りあります。運動や作業中の若者と、日常生活の高齢者だといいます。
熱中症の3分の2を占める「運動や作業中の発症」は、炎天下が多いですが、屋内でのケースもあります。湿度が高く、風がないと、汗をかいても蒸発せず、体温が下がりにくいからです。
運動や作業中に熱中症にならないためには、事前に天気予報をチェックして活動を控えることが大切です。
三宅さんは「運動などでは、『自分との闘い』につい頑張ってしまい、熱中症になることが多いです。大量の汗など、おかしな症状に周囲が気づいてあげることが大切」と話しています。

ミョウバンとくず粉でいい汗を

一番悩まされるのが、わきの汗です。デオドラント製品販売のシービック(東京都港区)の20、30歳代を対象にした調査によると、自分のわきの汗を気にしている人が84%、他人のが気になる人が76%もいました。
肉の摂取量の多い欧米人に比べると、日本人にわきがの人は少ないです。「わきがだと来院する人の7割以上は、気にする必要はありません」。東京・新宿の五味クリニック院長五味常明さんはこう話します。
しかし、東日本大震災以降の節電による冷房温度の高め設定や、臭いを問題とする「スメルハラスメント」という言葉も登場して、汗や体臭に敏感になる人が増えています。
制汗剤として売り上げが伸びているのが、「ミョウバン」を主成分にした直か塗りタイプです。ローマ帝国のシーザーが携えてクレオパトラに会いに行ったと伝わるくらいミョウバンは古代からの消臭剤。無香料で、臭いの元となる雑菌と汗を抑える効果があります。
「スプレーよりも肌への直塗りの方が、消臭成分が密着しやすく、効果が長続きする」とシービックは説明します。ひんやり感のある夏タイプも発売されています。
五味さんによると、いい汗をかく食品は葛根、ショウガ、大豆製品(豆腐、納豆、豆乳)くず粉でもいいので、くず湯にしたり、くず粉を料理に加える。また、すりおろしたショウガに蜂蜜を加えて、湯で溶いたショウガドリンクもいいです。
「汗をかきにくい人は真夏でも、きんぴらや大根おろしなど、体を温める根菜類をたくさん食べることを勧めます」。